う●こ、あるいは人間のクズ

仕事から帰ってきた。部屋の電気が付いていない、真っ暗だ。子供たちが寝ているのは良いとして、妻はどうしたんだろう。最近疲れているようだったし、先に寝たのかもしれない。

そーっとリビングに入ると、やはり真っ暗だった。キッチンのライトだけ付ける。晩ごはんは食べたようだが、私の分は用意されていなかった。「レンジで温めて食べてね」、そんな置き手紙もない。

特に食べることへの欲求はない。キッチンの電気を消し、部屋の隅にある間接照明の電気を付けた。私の影が魔物のように天井に広がる。

部屋着に着替え、11インチのノートPCを開いた。ブログの更新でもしようか。

書くべき内容は決まっている。先日調査したスニーカーの商品比較だ。データは揃っているから、あとは書くだけ。開始3分でタイピングのスピードが上がってきた。脳内の言葉がそのままスクリーンにうつる。ちょっとした高揚感だ。

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「食べたい?」 ハッとして顔を上げると、妻がキッチンに立っている。妻の顔はこちらには向いていない。晩ごはんの準備をしているらしい。

まさか「私をたべたい??」と聞いているわけてばないだろう。しかし何を食べるのかは定かではない。私は最も無難な言葉で答えた。 「食べたい」

それから妻は淡々と料理を作り、お皿に盛る。1ミリもムダな動きをしないように意識しているように見える。晩ごはんは肉巻き人参・高野豆腐・里芋の煮物だ。

「怒ってるの?」 私は聞いてみた。妻は答える。 「怒ってるって気付かなかったの?」 ・・・答えになってない。

「聞かないと分かんないの?マジでう●こだね。う●こ以下だね」 「え?う●こに並ぶ可能性あり?」 「ない」 「じゃあ"以下"じゃなくて"未満"だね」

ごはんが美味しい。豚バラ肉に包まれた人参を一口頬張ると、口の中で肉の旨味と人参の甘みがいっぱいになった。思わず口元が緩む。

「マジでそういうところ嫌い。人間のクズだね」 「おぅ、人間に認定して頂きありがとうございます」

高野豆腐の出汁吸収率は本当に尊敬に値する。もはや豆腐とは言い難い。スポンジだ。高野スポンジ。

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私は晩ごはんを食べ終わるとお弁当の箱とともに食器を洗った。最近お弁当の内側がざらついているのを感じる。ハイターかメラミンスポンジで洗ったほうがいいのかもしれない。こびり付いた汚れはだんだんと落ちにくくなる。

妻は食事を作ったあとは録画した朝ドラを見ている。私はお皿を洗い終えると、キッチンの電気を消して寝室へ向かった。